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1-2 蓮の入園式 2

last update Last Updated: 2025-06-07 20:30:58

すると、傍らに立つ修也が小声で声をかけてきた。

「大丈夫ですか? 何だか僕達随分注目されているようですけど全く気にすることはありませんからね? 何か困ったことがあればいつでも相談に乗りますから」

「あ、ありがとうございます……」

朱莉は修也に元気づけられ、笑みを浮かべるのだった。

****

 入園式終了後――

修也の運転する車の後部座席に乗り込んだ朱莉と蓮は楽し気に会話をしていた。

「どうだった? 蓮ちゃん。幼稚園、楽しんで行けそう?」

朱莉は蓮の手を握りしめながら尋ねた。

「うん! 僕ね、もうお友達が出来たんだよ! ハルト君とヒナタ君て言うの。明日幼稚園に行ったら一緒に遊ぶ約束したんだよ?」

蓮は目をキラキラさせている。

「あ、後ねえ……ハルト君とヒナタ君が言ってたんだけどぉ……」

「何? 何て言ってたの?」

「お母さんのこと……とっても綺麗だねって」

「え……ええ!?」

朱莉は思わず赤面してしまった。するとそれまで静かに運転をしていた修也が会話に入ってきた。

「うん、そうだね。蓮君のお母さんはとっても綺麗だものね」

「か、各務さんまで……!」

朱莉はますます赤くなる。

「あ! やっぱり修ちゃんもそう思う? お母さん綺麗だもんね?」

「うん。勿論そう思っているよ」

2人の会話が恥ずかしくなる朱莉。

「も、もう……この話はやめましょう。それよりも、もっと幼稚園のお話を聞きたいな」

「うん、いいよ。他にはねえ……」

そして蓮の話はマンションに着くまで続くのだった――

****

「各務さん、今日は本当にありがとうございました」

車から降りた朱莉は修也にお礼を述べた。

「ねえねえ、修ちゃんも家に行こうよ」

修也のことが大好きな蓮は手を引っ張る。

「ごめんね。蓮君。僕は仕事に戻らないといけないんだ」

修也は蓮の前にしゃがんだ。

「ええ~そんなあ……」

蓮は口をとがらせる。

「蓮ちゃん、あまり各務さんを困らせちゃ駄目よ」

朱莉がたしなめると蓮はますますふくれっ面をする。

「だって……」

「本当にごめんね……あ、でもその代り今度の日曜日、また水族館に連れて行ってあげるよ。蓮君、イルカ大好きだっただろう?」

「え!? 本当!?」

「うん、勿論だよ」

「え……? でも各務さん。それはご迷惑では……」

朱莉の母親の入院はまだ続いている。そして翔がカルフォルニアへ行ってからは修也が代
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     翌朝―― 朝の食事と回診が終わると、すぐに翔は祖父にメールを入れた。すると5分も経過しない内に翔のスマホが鳴った。着信相手は勿論会長からである。「もしもし!?」『おお……翔、元気そうじゃないか。いやあ驚いたよ。秘書課の課長から連絡を貰った時はな。まさかお前が急性虫垂炎にかかるとはな。でも手術は大ごとにならなかったそうじゃないか。しかし医学は発達したものだ。昔は開腹手術じゃ無ければ手術等出来なかったからなあ……』翔の焦りとは裏腹に、電話越しから聞こえて来る会長ののんびりした口調に苛立ちを募らせながら翔は言った。「会長! それよりもどういうことですか!? 修也に副社長代理をまかせるなんて……! 私には2週間程休暇を取るように言ったそうですね? 言っておきますが私は本来なら休暇をとるつもりは無いのですよ!? ですが、会長の命令とあれば受けるしかありませんが……」『翔……そんなにいやなら休暇はもういい。実はお前にはやって貰いたいことがあってな。お前には4年間カルフォルニア州へ行って貰う。そこで研修を受けてくるんだ。無事に研修期間を乗り越えられた上で、お前か修也のどちらかを後継者にする』「な、何ですって……!?」翔は耳を疑った。そんな話がまさか会長の口から飛び出してくるとは夢にも思わなかった。「ど、どういうことですか!? うっ……!」あまりに大声をあげたので手術の痕がズキリと痛み、翔は呻いた。『ほら、あまり興奮するな。傷に障るぞ? 良いか翔。人は競争してこそ成長する。お前は今迄自分が後継者に選ばれるのは当然と思っていたようだが、それに奢るな。鳴海家の地を引く人間なら誰だって後継者候補にあがるし、能力を兼ね備えている人物なら外部の人間が選ばれる可能性だってあるのだ。修也は本当に優秀な人物だ。お前だってそのことは知っているだろう? それに修也は経験も豊富だ。色々な場所や部署で仕事をしてきたのだからな。そこへ行くとお前はどうだ? ずっとトップの地位に座り続けているだけで下の者の苦労も知らない経験不足だ。そのような人間にこの巨大グープを任せるわけにはいかんのだよ』「そ、それは……」確かに祖父の言葉は的を得ている。だが、どうしても翔は納得出来なかった。『異論があるなら、この話やめてもいいぞ。その代わり出向は確実だ。もう二度とトップに昇れることはないと思え

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  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   9-21 修也と母 1

    「修也……お前、その話受けたのか?」翔は青白い顔で尋ねた。「違うんだよ翔。受けたわけじゃなくて会長からの業務命令だったんだ。仕方なかったんだよ」「断ることは出来なかったって訳か?」翔は投げやりに言った。(くそっ! やっぱり爺さんは始めから会社の跡継ぎに修也を考えていたって言うのか!?)「うん。それで会長から翔に伝えてくれって言われたんだよ。会社のことは大丈夫だから2週間はゆっくり過ごせって……」それを聞いた翔の顔色はますます青くなっていく。「修也……。会長は今、どこにいるんだ? 日本に戻っているのか?」「い、いや。日本にはいないよ。今はマレーシアにいるんだ。でも……」「でも、何だ!?」「近々帰国するかもしれないって言ってた……」「そうなのか?! それはいつ聞いた話だ?」「今日だよ。今日会長から連絡が入ってきたんだから」修也は翔の勢いに押されながら返事をした。「翔。会長と直接話したらどうかな? 今回の翔の急性虫垂炎のこと心配していたよ?」「虫垂炎……そうだ! 修也……お前、何故会長に俺の病気の事を報告した!? よくも余計な真似をしてくれたな!」翔は修也にくってかかってきた。「ち、違う! 僕じゃないって! 翔の性格のことだから、会長に病気になって手術になったなんて話、知られるのは嫌だと思ったから報告するつもりは全く無かったんだよ。会長に連絡を入れたのは、秘書課の課長なんだよ。しかも事後報告だったんだよ。だけどやっぱり僕の責任だね。秘書課の人達に会長には内密にして欲しいと伝えなかったんだから。本当にごめん」「いや……もうそれはいい」(そうだ……どっちみち、最初から俺を後継者にする気があるなら、こんなことを会長がするはずない……。俺がもっと会長の目に叶う人間だったら、例えこんな急病になったとしても修也を副社長の代理になんかするはずは無いんだ!)「悪かった…。お前のせいじゃない。責めてすまなかった…」「翔、一体どうしたんだい?」突然翔が謝ってきたので修也は戸惑ってしまった。(そうだ……俺に足りないのは他者への配慮なのかもしれない……)「そんなことより、翔。会長に直に電話して話をしてみたらどうかな? 翔の口から直接会長に話をしてみれば……」「そうだな。確か今、会長はマレーシアにいるんだっけ?」「そうだよ」「確か……日本と

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